リレー・エッセイ
 
いろいろなキューバが見えてくる
「教育優先国キューバ共和国を訪ねて」その4は、著者都合により、次回定期更新(5月15日)で掲載いたします。
Vol.4 「教育優先国キューバ共和国を訪ねて」 その3

田口教育研究所所長 田口 正敏

(田口教育研究所については文末をご覧ください)
 
 最近、日本では小中学校の教科書検定の話題が豊富である。「円周率3.14を3に」、理科の教科書からは生物学的に最も重要な「進化論」が外される。この様な重要なことを外していて文部科学省の寺脇 研氏は「これまでは指導要領を超えて教えることはできなかった。今度の新指導要領では余力のある子はどんどん先に行く。教科書は身につける最低ラインです。」と発言している。
 この発言にはいくつもの問題が潜んでいる。まず、「どの子どもにも100点をとらすレベル」ということが含まれているが、「割り算がどうしても解らない子」や「音楽や美術がどうしても面白いと思わない子」などが現実に存在する。また、いままでに、過去の「学習指導要領」が正しかったのかどうか、の検証は毎回必要事項であるのにいつもされていない。まさか検定委員はやることが無いために、多くを削除したり、いくつもの注文をつけたりしているのでなければいいのだが。
 一方、世界の国々を見ると、かなり多くの国では教科書の検定は州や自治区で行われていることが多い。我が国のように国家統制のように教育を管理している国は珍しい方である。 どの道、現在の日本の教育・家族・国家は危機的状況を呈している事は間違いではないであろう。その場限りのツケヤキバの発想や、1年限りの発想。そのような口先だけの発想ではなく、20年、50年の先をみた国家への責任が必要な時になってきた。しかし、そのような考え方を勝ち取るには、ある意味「闘い」が必要なのかもしれない。

町の一般的なマーケットで購入したエハガキ。チェ・ゲバラの絵ハガキは多い。
何枚ものチェ・ゲバラを買ったが、自分の一番好きな表情は右上の1枚。

 キューバに来て3つ目の学校訪問、高校である。ブラディミール・リッチ・レーニン高校。市の中心部より車で1時間ほどはなれた、郊外の人里離れた所にある。
 最初に待合室に通され、校内の農園で収穫できたグレープフルーツジュースを御馳走になった。なんとフッレッシュなことか。
高校の休憩時間の校舎の外側。服装も色々ある。
 まず校長が学校の概要を説明してくれた。ここは全寮制であるそうだ。生徒数は現在3,600人(4,000人まで可能)、科学系の学科だけの、かなりの特殊校とのこと。校内には農園あり、病院あり、機械工場あり、まして映画館から3つのプールまであるということだった。
 農業にはかなりの比重をかけており、1ヵ月に15日間の実習が義務になるそうだ。「科学」が中心で特殊性が強い高校のため、入学してきても退学してしまう生徒が3年間で5〜8%出てしまうそうだ。また、大学へ進学していく生徒は約95%と、キューバ国内でも高率であるそうだ。
 その概要を聞いたあと、校内の見学に動きはじめた。学生達の服装は、ある程度基本パターンがあった。シャツは水色、ズボン・スカートは紺が基本パターンとなっている。しかし、これとは異なる服装も多々見かける。
高校の休憩時間の校舎内の廊下風景。日本と同様に廊下にペッタリ。
 そして、なんと廊下や通路では、日本と同様にあちらこちらで地面にペタッと座っているではないか。校長を先頭に案内をしてもらっていると、廊下で、階段で、すれ違う生徒と校長があいさつをし握手をし、はては女子高生が校長のホッぺにチュッとしている。キューバに来ると驚くことと、うらやましいことが頻繁に出現する。
 フロワーを登っていくとそこは理科の標本室だった。この理科室からはこの高校の女生徒達が案内をしてくれた。
  「この学校を選んだのはなぜ」と質問すると「4歳のころから理科が好きで、将来は臨床医になろうと考えています」との回答であった。もう一人の生徒の回答は「科学的なことが好きです。将来は科学の研究者になりたいと思っています」などの答えが返ってきた。
  もちろんこの学校は特殊性として、科学がテーマである。だから、科学に興味のない子は来ていないとは思うが、16歳、17歳の若さで、かなり将来を見つめた回答は立派なものだ。
 日本ではこのような回答は返ってこないであろう。日本では、高校であろうが、大学であろうが、まして社会人までもが方向性のない生活を送っていないだろうか。前回も記したが、16歳での選挙権、そして小中学校での多くの体験的教育環境がおおきな柱として存在しているのではないだろうか。この2者の違いは国家の体制として、人間に対する責任としての結果ではないだろうか。
野球場のすぐ脇。1月なのに全員半袖姿。気候と気質は関連するのかも。
 理科展示室に足を踏み込むと、まずは宇宙の3次元的模型や太陽系が展示されている。生物のコーナーに行くと、小生が大学時代の研究テーマであった棘皮動物、ムラサキウニの標本が他の8種類のウニと同じケースの中に展示してあった。他では、両生類であるカエルのタマゴ、オタマジャクシ、子ガエルの標本の展示。まして、哺乳類の標本の中にはヒト胎児の4ヵ月ぐらいの標本も存在していた。昆虫類も多種類の標本が展示してあり、当然日本では見ることの出来ないカラフルなチョウチョウが多く展示されていた。植物などは引き出しのタンスの中にきれいに整理され、多層の標本棚になっていた。彼女たちは誇らしげに標本や展示室、絵画作品の案内をしてくれた。
 やはり彼女達にも質問をした。「小・中・高校と来て、学校教育に対してどのような感想をもちますか」とたずねた。
 すると、なんと「教育が国の基盤をつくり、それは世界にも関係していきます。」と答えたではないか。高校生が、である。選挙権にしても、この発言にしても日本と比較すると、なんと大人びた発言であろう。そして、「なぜ、日本ではこのような発言が高校生になくなったのだろう」と考えはじめた。
  30年前まであった大学紛争・高校紛争。その環境条件には「日米安保」があり、「ベトナム戦争」があった。だから、若者たちがすべての国家システムを考え、討論し、国のありかた、世界のあり方を語ったのだろうか。一方で、そのような事象が存在しなければ、「わかーんなーい・つまーんなーい」を連発する若者を作り出していいものなのだろうか。

(C)Photo by M.Taguchi 2001.
(続く→その4

田口教育研究所

田口教育研究所は「不登校・中退者のための新しい学びの場2001」(日本評論社、2000年11月発行)をはじめとする教育現場紹介や「不登校・中退体験発表会」、「不登校・中退進路相談会」および「教育問題電話相談会」など、現在の教育問題に関わる多彩な活動を行っています。
また、「親のための勉強会」や閉じこもり青少年の相談も、専門のスタッフにより行っています。

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