リレー・エッセイ
 
いろいろなキューバが見えてくる
 
Vol.4 「教育優先国キューバ共和国を訪ねて」 その4(最終回)

田口教育研究所所長 田口 正敏

(田口教育研究所については文末をご覧ください)
 
 先日、日本の「教科書検定問題」で韓国政府から再修正の要求がでてきた。その内容の多くは「新しい歴史教科書を作る会」が編集したものに対してだった。内容は不明確やあいまいな内容ではなく「明確な誤り」とされ、正に客観的な指摘によるものである。このことに対して、文部科学省遠山敦子氏は「客観的・学問的見地から精査したい」と発言している。この言葉がいつもの日本人特有の政治言葉や官僚独特の逃げ腰でなければよいのであるが・・・。たとえ自然科学の内容でなくとも正しいものは正しく、誤りのものは誤りとして対処していかなければいけない。過去において再三、日本帝国主義や他国の帝国主義国家が侵してきた人間社会に対しての悲惨な事実があったはずである。二度とあの過ちを犯してはならない。そのためにも我々国民が常に危機感をもって監視と批判を怠ってはならないのであろう。
広大な敷地の障害者学校。看板には車椅子のイメージが。
 さて、キューバ共和国の教育視察最後の目的地、障害者学校の訪問となった。キューバではその障害者教育は、盲学校・聾学校そして行動障害学校と分かれるそうだ。また、このような学校は全国で428校あるそうだ。
 今回の所在地は高等学校と同様に市街地からやや離れた所に存在する。校舎は当然ながら1階建てであり、車イスなどでの移動がしやすい様に工夫されていた。また、この学校では通常学級への通過点としての役割があるようである。クラスは編成されているが、生徒数はクラスあたり2〜5名である。
小学生の1つのクラス。毛糸編みの実習。右から2人目が同行した「のむぎOCS」の樋口さん。
 毛糸を使っての手芸をやっているクラスを見学した。四肢に先天的障害又は、事故などによる後天的障害をもった子どもでも楽しそうにその授業に取り組んでいた。
 また、写真を撮り忘れてしまったが、体育館ではリハビリ用具が何十種類と整備され、プログラムに応じた種目を子ども達はこなしているのを見学できた。もちろん体育の授業の一貫としての取り組みであるため、医師の資格をもった教員がこの授業を担当していた。
 一方、この学校の中庭では他の通常学校の児童が遊びに来ており、それぞれ障害児と健常児との混成チームを作り野球の試合を行っていた。この分け隔ての無いチーム編成などは国家の教育の結果ではなかろうか。
学校の中庭風景。地域のこどもと障害者の子どもとがチームを組み試合ができている。
 障害のある子ども達と、そうではない子ども達が合同で自然に遊んでいられる。やはりこれらの環境も歴史の中で作ってきた産物なのであろう。
 この障害者学校でもやはり多くの人種の肌をみることができた。スペイン系・アンティ―ル系そしてアジア系となんと多くの人種が共存しているのだろう。15世紀からのスペインの侵略、16世紀からのアフリカ黒人の移民、中国人の移民そして少数ではあるが日本人の移民。まさに人種にも障害者にも差別感のない「ヒト」の為の国家作りが成功している例として手本になる地球上の例ではなかろうか。
 またこの学校は全寮制であり、良い面では専門家の直接指導があり、悪い面では家庭に帰れるのが年に2回だけだそうだ。また、病院や家庭から外出できないでいる子ども達にとっては、訪問を専門とする教師も準備されているという事であった。
ハバナ市中央の広場。ゲバラがいつも守り役。
 いままでに小学校・中学校・高等学校そして養護学校と見学してきたが、国家作りの基本を「教育」におき、その思想背景をホセ・マルティとチェ・ゲバラにおいてある。その基本とは「たとえ多くの富が生産されようとも、ヒトの意識を重要視していかなければ高次の社会構造または、人民の幸福は達成できはしない。」という思想である。外貨こそこれからのテーマであるかもしれないが、教育・健康・スポーツの基本形態は構築された。
 ここで、前回も少し述べたが国民の健康の話しを交えておこう。キューバ国内での平均寿命は革命以前では55歳に達していなかったが、現在では男性が73.5歳、女性が77.5歳を示している。この現象は革命前の悪条件下での人民の経験から、健康と保健の分野にやはり国家予算が注入されたためである。医師と看護婦の養成、医院と病院の増設、科学・医薬分野の研究費増強などもおおきなこの国のテーマであったはずである。
 さて、この様な体制の教育環境を作り上げてきた国家であるが、ここに来るまでの時間と努力、そして信念を我々は感じとらなければならないであろう。第一に、国民と地球規模でのヒトの幸福であるべき状態の結論を提示すること。第二に、その為に行うべき行動として教育の重要性と人民の健康に基礎を置いた社会構築。第三に、この考えのゆっくりした程よい実践と拡大。これらを感じ取ることができた。
 東京や香港の様に、セカセカ町を歩くサラリーマンや商社マンのエネルギーはこの国にはない。ほとんどすべての人間が国家公務員であり、生きている時間を楽しみ満喫している。子ども達も笑顔がこぼれ、太陽のエネルギーを勝ちとっている姿の美しさ。そんな様子をマルティとゲバラは見守っていることであろう。
メキシコで偶然出会ったサマーヒルスクール。偶然の出会いか、必然なのか・・・。
 話しは変わるが、帰路の中継地のメキシコでのことである。リゾート地区カンクンでガイド役として、日本人が付いてくれた。なんと、息子がニ―ルの創設した「サマーヒル」に在籍しているというではないか。市内観光よりぜひ「サマーヒル」の見学をと要望した。商業地区のはずれにその学校はあり、小学1〜6年生を対象とした養護学校であった。(写真5.)生徒たちはメキシコの原住民族、スペイン系が目立って在籍していた。(写真6.)今回の教育調査の目的ではなかったのでくわしい話しは聞いてはいないが、やはり教育を志す1個人の意識が根付いているところであった。エネルギッシュな校長から話しを聞けた。
サマーヒル内での授業風景。健康優良児ばかり。
 しかし、LDに対する理解が不足している為、苦しむ親と子の存在があったことと、在籍者のうち約10%の子ども達が主に経済的な理由で通えなくなってしまうという話しが大きく記憶に残る。 現在の日本の狂った教育現場(親の子殺し・不登校の増加・高校中退の増加・無目的な生き方etc)で一つ一つに反論しているが、全体の流れを包括的に変革させていかなければいけない時がせまっている。それが比較論として他国を見聞して見えてきたものである。

同行者の写真。右からメキシコでのガイドの方・樋口さん・サマーヒルスクールの校長・金沢市のフリースクール「ワンネススクール」南手骨太さん。
(終)
(C)Photo by M.Taguchi 2001.

田口教育研究所

田口教育研究所は「不登校・中退者のための新しい学びの場2001」(日本評論社、2000年11月発行)をはじめとする教育現場紹介や「不登校・中退体験発表会」、「不登校・中退進路相談会」および「教育問題電話相談会」など、現在の教育問題に関わる多彩な活動を行っています。
また、「親のための勉強会」や閉じこもり青少年の相談も、専門のスタッフにより行っています。

問い合せ先
田口教育研究所 田口正敏
〒150-0001 東京都港区虎ノ門1-13-8 (財)森村豊明会内
TEL:03-5251-5334 FAX:03-5251-4637
ホームページ http://homepage2.nifty.com/taguchi-ken/
 
「教育優先国キューバ共和国を訪ねて」へのご感想・ご意見をお寄せください。
Connect to info@casa-de-cuba.com
 
Back
 
copyright(C)Casa-de-Cuba. 2000-2001 info@casa-de-cuba.com