リレー・エッセイ
 
いろいろなキューバが見えてくる
 
Vol.5 「キューバ音楽に魅せられて!」 その4
レコーディング

ラテン歌手 マルガリータ恩田
 
 私がCDを作りたいと思った最初の目的は2人の子供達に自分を残していきたかったからです。社会人に成って崖ふちに立たされた時、このCDを聞いて人生のやり直しをして欲しいという強い願いを込めて作ったのです。しかし、どうしたことか、子供達から返ってくる言葉は「私達はお母さんの歌が聞きたいからCDを作ってなんて一度も言ったことないじゃない。基本的に自分が作りたいからでしょう。」と軽く言われてお終い。
 “子供は親の子半分”とはこのことでしょう。また、この時はまだ、皆様に自分のCDを聞いて貰いたいという気持ちを持ち合わす自信はありませんでした。

エスペランサと
 初めてのキューバコンサートの時、私は、何の意識もしていないのに、自然と涙が溢れでて、その曲の中にすっぽり陶酔し歌っていた自分を忘れることが出来ません。ハッと思い、咄嗟に後ろを振り返るとエスペランサという女性が夢中で“アングスティア”(悩み)という曲を弾いていました。彼女の弾くヴァイオリンの音色は、何とも例え様のない哀愁を醸し出し、知らぬ間に自分もその中に引きずり込まれ涙を流していたのです。演奏に導かれ、私の心は自然と唄の真ん中に入っていたのです。
 「今までこんな経験はなかった。自分がいつも使っている同じ譜面なのにどうして?」
 この時受けた強い感動は頭から離れず、“どうしてもキューバでレコーディングをしたい”という願いに繋がりました。

 キューバ文化の中でも主要な位置を占める音楽は、一定水準を保つため、文化省及び音楽院関係者5、6人が審査し実施する、プロのミュージシャンを対象とした能力テストが年に数回行われます。このテストで各々の能力を分け、給料などの参考にします。万が一、失格してしまうと、プロとしての音楽活動が停止してしまいます。
 私も機会があり、このテストを見学することができました。穏やかでのんびりとした性格のキューバ人もこの時はかなり緊張した顔つきで真剣そのものでした。キューバ音楽の華やかで軽快なステージの裏に隠された秘密とでも言うのか、音楽大国としての威厳を保つべき、国全体としての目に見えない陰の努力には大変驚き、感心もしました。
 世界中の多くのミュージシャンをも虜にし、あの軽やかで魅力溢れるリズム大国キューバにはキューバのミュージシャンとしてのこんな厳しいプロの道があったのです。自分自身が今までず〜と思っていた「なぜ?」も、この時初めて解けたような気がしました。

 EGREM(エグレム)と呼ばれる私のレコーディングに使用したスタジオはハバナとサンチャゴ、両方の都市にあります。(ハバナのEGREMは映画“ブエナビスタ・ソーシャルクラブ”でご存知の方も多いでしょう。)
 1枚目のCD“カリブ海の調べによせて”はハバナ、私の初めてのオリジナル曲“TRES MOTIVOS UNA MUJER"を含む2枚目のCD“AMOR POR CUBA(愛しのキューバ)”はサンチャゴにて録音する機会に恵まれました。どちらのスタジオも機械の関係上、室内は必要以上に寒くて私は毎回、常夏の島、キューバで震えていました。

 レコーディングは最初にカラ取りといってバンドの音のみを録音します。その作業が終わると、次に歌をその音のテープと歌い、最終的に両方の音をかぶせ合わせていき終了となります。そして、この全過程で大変重要な役を果たすのが音の調子を組み合わせ調節していくミキサーです。どんな小さな音(時には咽もとのかすかな唾の音までも聞き逃さずノイズをカット)も判断して調節していくミキサー担当者には音に対する厳しいセンスが要求され、問われます。彼の音の組み合わせ次第で曲の持つイメージが大きく変わるため、“音の魔術師”とでも言えるでしょう。

レコーディング風景
 カラ取りの時は比較的気を楽にして私は臨めるのですが、やはり歌取りの分野に入ると全てのプレッシャ−が一気に押し寄せてきます。録音する喜びと共に、この場から逃げ出してしまいたいと思う気持ちも混在します。まさに勝負!レコーディングに備え、日本にいる時、飽きる程練習して臨んだ曲なのに、何回やっても「駄目!駄目!」と首を横に振られてしまうことの連発、そしてやり直し。自分では充分にリズムに乗り唄っているつもりなのに・・・微妙なリズムの違いでもすべて「NO!」。
 度重なる失敗に疲労が重なり始め、泣きたくなる自分、その場から羽根をつけて遠くへ逃げたくなる自分。けれど、そんなどうしようもない立場に置かれた私に対しても彼らは、手取り足取りどんな細部に至るまでも、呆れることなく穏やかに粘り強く、噛み砕く様に教えてくれるのです。(今になると、これが覇者の余裕なのかな!?と思います。)
 かと思うと、もう一度やり直してほしい曲など、一週間頼み込んでもやり直しは「NO!」。
レコーディング関係者達と
 どうしても歌い直しがしたいと言い張る私に、相手も困り果て、音楽関係者数人を集め収録の終わった歌をもう一度聴く。しかし、返ってくる言葉は皆同じ。
 「どうしてやり直しをしたいんだ。これは素晴らしい。歌はその時だけ。心の感情の表現はそのときだけ。必要なのはその曲全体の雰囲気だ。音が一つはずれようが、狂っていようが関係ない。それがマルガリータのものだ。」と強調し説得する関係者の意見で結局やり直しは出来ませんでした。しかし、このレコーディングで私はキューバミュージシャンとともに一つのものを作り上げる最高の喜びを教わりました。本当に嬉しかった!
 「何故!?」って、キューバミュージシャンの仲間として家族として扱ってもらえたという妥協の無い厳しさを体験できたから! “お世辞の無い優しさ”を教えて貰え、また、味わえたのです。私に対する “お客様”の文字がキューバ人の心から消えたという事を実感しました。

 「スペイン語がしゃべれないでどうしてマルガリータは唄えるの?」っていつも不思議そうな顔をして覗き込まれていた自分。「どうすればキューバ人の様に歌が上手になるの?」って、オマーラ・ポルトゥオンド先生に聞くといつもいつも「コラソン、コラソン(心)」と言われるばかり。その時は解った様で解らずにいた言葉ひとつひとつの意味が10年の歳月を経て、やっと解り始めた気がします。“一番になろうと努力するのではなく、自分独自のものになろうと努力すればいい”と誰かが言ってたネ。

 
上・CD「カリブ海の調べによせて」
下・CD「Amor por Cuba」
お求めは、オフィス おんだ
Tel:027-347-1001
Fax:027-347-1002 まで
各¥3,000
 冒頭で触れた2人の子供達も今は社会人になり、「外国に住んでいる時、すごく役にたったよ、このCD!」
「へぇ〜、どんな風に?」と聞くと、
「兎に角、励まされた。意思を持ってやれば何事も夢実現になるんだ!って事が分かった。マルガリータ恩田が目標に向かってがんばっているのだから自分もがんばらなくちゃ!と思うんだ。」
 私も「励みになった」というこの言葉をしっかりと心に留め、“10周年記念リサイタル”に向けて夢中で走りつづけています。これからもキューバ音楽を中心に皆様の生活の中に“元気”を取り入れラテン音楽を楽しんで頂きたいと思います。

 このエッセイを書く機会を与えて下さった皆様、そして読んでくださった一人一人の皆様、本当にありがとうございました。2001年10月19日(金)にステージにてお会いできる事を楽しみにしております。
(終)


マルガリータ恩田10周年記念リサイタル
Amor por Cuba
10月19日(金)18:30開場/19:00開演
高崎市文化会館
(高崎市末広町23-1 Tel:027-325-0681)
料金:¥5,000(税込)  全自由席
主催:高崎・キューバ国際交流会
後援:キューバ共和国大使館、NHK前橋放送局、群馬県、高崎市ほか
チケットインフォメーション:オフィス  おんだ
Tel:027-347-1001 Fax: 027-347-1002
e-mail:m.onda.2@sweet.ocn.ne.jp


高崎・キューバ国際交流会では、会員を募集しています。
活動主旨
(1)  マルガリータ恩田リサイタルを通して、交通遺児への寄附など
(2)  高崎とキューバの文化など全般の交流
(3)  障害をもつ人たちと音楽を通しての交流、など
年会費 2,000円(会報、通信費等)
事務局 〒370-1207 高崎市綿貫町775-1 オフィス恩田内
TEL:027-347-1001 FAX:027-347-1002
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