| いろいろなキューバが見えてくる | |
| Vol.7 キューバの現在−あれこれ |
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| 神奈川大学助教授 後藤 政子 | |
| アフガニスタンへの武力攻撃がようやく終わったと思いきや、ブッシュ大統領の口から「悪の枢軸」論が飛び出し、北朝鮮、イラン、イラクへの武力攻撃の可能性が取りざたされた。すでに南イエメンについては軍隊の派遣が決定されている。そのため、現在、ブッシュ政権の関心は中東やアジアに向けられ、長い間米国の「裏庭」とみなされてきたラテンアメリカは一時的に視野の外にあるのではないかと思われるが、そうではない。むしろ逆にラテンアメリカにおける米国の軍事的影響力は強まっている。 「9月11日以後、世界各地で「タリバン派」の拘束や逮捕が相次いでいるが、ラテンアメリカ諸国にも多くのイスラム系住民がおり、例外ではない。一方、2001年の米国務省報告ではラテンアメリカは「テロ攻撃が最も増加した地域」となっており、ブッシュ政権の「テロとの闘い」にとって重要な地域である。いうまでもなくキューバはイラン、イラク、シリア、リビア、北朝鮮、スーダンと並ぶ「国際テロ支援国家」に含められている。米国の連邦議員のなかにはアフガニスタンが含まれていないのに、なぜキューバなのか、という批判もあるが、キューバ系議員の反対のためテロ国家リストからの削除は行われていない。もちろん、経済封鎖など米国のキューバ包囲は当面、変わりそうにない。 一方、国務省報告で「テロ組織」として挙げられているのはラテンアメリカではコロンビアの「コロンビア革命軍」(FARC)と「民族解放軍」(ELN)、ペルーの「センデーロ・ルミノーソ」と「トゥパク・アマール革命運動」(MRTA)の4ゲリラ組織である。これに現在ではコロンビアの極右武装団体「コロンビア統一自衛隊」(AUC)が含められた。 この報告書をみてもわかるように、「テロ国家」や「テロ組織」とは米国の推進する「新自由主義経済体制」に与しない政府や組織を指しており、冷戦体制終結後、米国の対ラテンアメリカ政策において「共産主義の脅威」が声高に叫ばれることはなくなったとはいえ、冷戦時代の思考は実態として変わっていない。同じことは昨年11月に行われた中米ニカラグアの大統領選挙でもみられた。サンディニスタのオルテガ候補の勝利による「10年ぶりの革命復活か」と期待されたが、旧独裁者のソモサ派といわれるボラーニョスが勝利した。オルテガ候補の敗北にはセクハラ問題やソモサ派の自由党との「連携問題」、サンディニスタ派の分裂などの要因も無視できないが、サンディニスタ革命復活を阻止するために米国が強力に介入したことが指摘されている。同じく、「新自由主義政策」の見直しを掲げ、キューバとの親交を深めているベネズエラのチャベス政権についても、米国はコロンビアのゲリラを支援していると非難を強めている。 コロンビア和平の破綻 政府とゲリラ組織との間で長い間和平交渉が続けられていたコロンビアで、この2月末に政府は交渉打ち切りを宣言し、FARCの支配区に軍を進めた。「FARCの度重なる不法行為に業を煮やした」ためとされているが、問題はそう簡単なものではない。すでに現在では政府や政府軍とゲリラとの間で合意ができたからといって和平が実現する状況にはないのである。 コロンビアの内戦の歴史は古く、1940年代から50年代の「ビオレンシア」(暴力)の時代にまで遡る。これは2大政党の保守党と自由党の間で繰り広げられた内戦だが、1958年には両政党が交互に政権を担当することで合意が成り、以後、平和的な政権交代が続いた。しかし、もちろん、これによって土地改革を初めとする社会経済問題が解決されたわけではなく、60年代にはコロンビア革命軍(FARC)、民族解放軍(ELN)、EPL(人民解放軍)が、70年代にはM19(4月19日運動)がゲリラ活動を開始し、再び内戦状態に陥った。80年代にはいりベタンクール政権(1982−1986)のもとで和平が実現し、FARCとEPLは政党を結成して選挙に参加するほどになったが、元ゲリラの政治家を含む暗殺事件が相次ぎ、またもや内戦となった。 長引く内戦のなかで急激に勢力を拡大したのがメデジン・カルテルやカリ・カルテルといった麻薬組織と、民間の極右準軍事組織「パラミリターレス」(paramilitares)である。「パラミリターレス」はもともとは地主の私兵であるが、その背後に軍部が控えていることは良く知られている。先に挙げたAUCはその最大の組織であり、現在では8000人のメンバーを抱える一大全国組織となった。いまでは資金的にも軍部や地主から自立し、麻薬取引のマネーローンダリングによって得た潤沢な資金によってヘリコプターや重火器まで備えている(Nacla report on the Americas jan/feb, 2002)。指導者はカルロス・カスターニョ。主な支持層は大地主や新興のアグリビジネス、中間層などである。 特に急成長をとげたのは90年代であり、それとともに内戦は激化し、いっそう血なまぐさいものとなった。内戦で虐殺された者は1970年代には10万人につき28人だったものが、80年代には60人、90年代には94人と増えている。とくに大量虐殺事件は1995年以降急増し、2000年には1226人が殺害された。そのほとんどが「パラミリターレス」によるものとされている。コロンビアでは政府軍とゲリラの内戦にこのパラミリターレスと麻薬組織が加わり、複雑な関係を作り出している。たとえ、政府とゲリラ組織の間で合意が成立しても極右軍事組織が武器を放棄しなければ、ゲリラ勢力は極右組織の暴力に裸のままさらされることになる。 米国の財界の中には度重なる米人の誘拐や虐殺事件を前に、米州自由貿易圏構想への組込みのためには和平による治安回復が欠かせないとするグループもあるが、国防省は武力鎮圧を主張してコロンビア政府軍やAUCを支援している。米国政府は一方では和平を勧めながら、他方では軍部を支援するという分裂状態を起こしているわけで、AUCや軍部が口では和平に協力するといいながら、和平が実現しないのもこのためである。 「ナルコテロリスト」 「ベルリンの壁崩壊」後、米国の対ラテンアメリカ軍事政策は麻薬対策が重要な柱となった。つまり、「共産主義の脅威」に代えて、麻薬撲滅という「正義のための闘い」が前面に出てきたのである。コロンビアのゲリラも、またペルーのセンデーロ・ルミノーソやトゥパク・アマール革命運動なども、資金獲得のためであれ、あるいはコカ栽培農民を政府軍や麻薬取引人から保護するためであれ、何らかの形で麻薬取引との関わりが指摘されており、そのために「敵」は「ナルコテロリスト」(narcoterrorist)ということになった。 ラテンアメリカで栽培される麻薬の原料はコカ、ケシ、麻などであり、それぞれ精製されてコカイン、マリファナ、大麻となる。とくにコカはボリビア、ペルー、エクアドル、コロンビアなどのアマゾン流域で多く栽培されている。高地、乾燥した気候、日射をさえぎる樹木の存在などが栽培に適しているのである。ボリビアやペルーなどの映画には先住民が旅の途中や鉱山労働の休憩時間などに「コカを噛む?」といって袋からコカの葉を出すシーンがよく出てくる。ケチュア族やアイマラ族などは「コカの民」といわれるように、数千年にわたってコカの葉を薬や食糧や通貨として使ってきた。コカはアンデス地域の文化なのである。 しかし、コカの葉は数段階の精製過程を経てコカインという麻薬になる。ある計算によれば600グラムの純粋なコカインをつくるには275キログラムのコカの葉が必要であるという。この量のコカにたいし栽培農民に支払われる価格はおよそ250ドル、これにたいしコカインは2万ドルにもなる(La guerra contra la coca: una vision desde Bolivia, envio, abril 2001)。末端の取引人にとっては非常に利益の大きい商売である。 コカインの最大の消費地は米国だが、麻薬根絶のため米国政府はコカ栽培の絶滅にのりだした。その政策は(1)枯葉剤の空中散布、(2)火炎放射器などを使ったコカの樹木の焼却や麻薬の廃棄、(3)代替作物の奨励の三本柱から成り立っている。かつてボリビアとペルーはコカの最大の産地であったが(ラテンアメリカ全体の4分の3を占めていた)、今ではコカ撲滅が功を奏してコカ生産は半減した。これに対し、コロンビアではこの10年間に10倍以上に増え、最大の生産地となった。つまり、コカ栽培を撲滅しても栽培地は次々と所を変え、なくなることはないのである。コカは麻薬対策のためにアンデス諸国だけではなく、メキシコなど各地に「移住」している。 麻薬撲滅政策は経済の衰退をもたらしている。ココ椰子やトウモロコシなど代替作物栽培への転換も、農産物の市場価格の低迷や転作支援体制の不備のために進んでいない。しかも、1ヘクタールあたり2000ドルの収入が見込めるコカに代わる作物はなかなか見当たらない。それだけではない。コカ対策が「成功」したボリビア・コチャバンバのチャパレでは枯葉剤の空中散布により農業そのものが不可能になってしまった。栽培地だけではなく近隣地域でも雨水とともに枯葉剤が流出している。その結果、コチャバンバの経済も衰退した。 ラテンアメリカ社会の軍事化 クリントン前政権は政権最後の年の2000年に、「ナルコテロリスト」撲滅のためアンデス地域にたいする13億ドルの軍事援助パッケージを連邦議会に提出し、承認を受けている。この政策の中心は「コロンビア・プラン」であり、8億6000万ドルが充当された。そのほとんどは軍と警察への援助である。装備の強化や近代化、諜報活動の強化、特殊部隊の訓練や派遣などだが、これによって麻薬取り締まりだけではなく、ゲリラ対策や市民生活のコントロールなどコロンビア社会における軍や警察の影響力は高まった。 「9月11日事件」直後、コロンビア政府は「反テロ法」を議会で成立させている。反乱抑止政策における軍部の自由裁量権を拡大したものであるが、「ラテンアメリカ社会の軍事化」を示すものである。しかし、こうした現象はコロンビアに限られない。ブッシュ政権のもとですでにラテンアメリカ諸国に対する軍事援助は経済援助を上回っている。 コロンビアでは和平交渉の決裂後、軍とパラミリターレスがゲリラの支配区に進撃している。これによって内戦はますます長期化し、血なまぐさい虐殺が再び繰り返されることであろう。 一方、ボリビアのコチャバンバでは昨年来、農民と労働者が連携する反政府デモや集会が始まっている。麻薬対策の犠牲者である農民と新自由主義経済政策にもとづく民営化に反対する労働組合が連携して行動に立ち上がったのである。今年に入ってからも農民による道路封鎖がずっと続いている。石を道路に撒き散らし、大型車両の通行を阻止しているのだが、日本でもスカイパーフェクト・テレビのラテンアメリカ・チャンネルによって連日のように報道されている。 他のラテンアメリカ諸国でも、メキシコ・チアパスのサパティスタの蜂起、昨年、大きな展開をとげたエクアドルの先住民運動など、新しい社会運動が活発化している。新自由主義経済体制の矛盾は深刻であり、明らかであったにもかかわらず、これまでは「他に選択肢がない」という理由で大きな抵抗運動は起きなかったが、今、ようやくその犠牲者たちが各地で声を上げ始め、その転換を求め出したと言ってよい。このほか、ペルーでもフジモリ政権のもとで殲滅されたはずのセンデーロ・ルミノーソやトゥパック・アマール革命運動の活動が復活しているといわれる。ブッシュ政権の「敵」である「ナルコテロリスト」や「テロリスト」は事欠かず、ラテンアメリカが戦場と化す可能性は大きい。 |
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